社会福祉法人げんき
2025.3.26UP
■取組ポイント
ICT化によりペーパーレス化と業務効率化を推進し、職員が働きやすい環境を整備。
業務効率化と残業減少を実現し、離職率が低下、長く働く事の出来る職場へ
「社会福祉法人げんき」は、品川区にある6か所の事業所で障がいのある子どもから成人までの就労・生活・療育・相談支援を行っています。
「東京サステナブルワーク企業」に登録している企業や法人の中では唯一の医療福祉業者であり、職員が働きやすい環境を整えたことで離職率4.92%を実現させています。
福祉業界では、人材確保が大きな課題となっています。出産や育児、また介護などのライフステージの変化を機に退職を選んでしまうのも、要因のひとつです。
その課題を解決するための手段のひとつとして、同法人はICT化による「未来の働き方」に挑みました。導入や運用にあたってどんな工夫を凝らしたのか、担当者にお聞きしました。

社会福祉法人げんき
住所:東京都品川区東大井5-5-13-101
業種:医療、福祉
事業内容: 社会福祉事業
HP:https://swc-genki.org/

- 残業の少ない働き方の実現
- サステナブルな働き方・くらし方の普及
- 休暇を取りやすい働き方の実現
- 多様な働き方の実現
- 副業・兼業の推進
- 働く人が能力を生かせる賃金・処遇制度の実現
- 働きやすい就業環境の実現
- 高齢者の就業促進
働き続けられる職場を目指してICT化に挑戦
―働き方改革に取り組むことになった経緯をお聞きします。取組前は、どんな課題を抱えていたのでしょうか。

福祉業界では、人材の確保が課題となっています。有資格者の優秀な職員がライフステージの変化で辞めていってしまうことも多く、働き続けることができる職場を提供したいと考えていました。
もうひとつ、業務面の課題に目を向けてみると、稟議書や決裁関連の多くの業務が紙で行われていたため、事業所にいなければ仕事が進まない状況でした。承認を得るために、所属長が事業所に帰ってくるのを待つといった時間が生じてしまい、効率性を見直す余地があると考えていました。
―実際に取り組むきっかけは何かあったのでしょうか。
コロナ禍で事業所での対面サポートができなかったとき、電話やオンラインで何か支援ができないかと模索したことがきっかけです。その中で、オンラインで何かしようにもネットワーク環境が整っていないことが課題として見えてきました。
その課題を解決するため、そして働き続けられる職場、働きやすい職場の実現を目指して、ICT化に踏み切りました。
職員にスマホを貸し出し、資料や情報をクラウドで共有
―福祉業界でICT化へ取り組む法人はまだ少ないと思います。具体的な取組を教えてください。

事業所のご利用者へのサービスは、対面が基本となっています。そうすると、子供が熱を出したら仕事を休まないといけない、自宅での介護が必要になったらフルタイムで働けない、といった状況が生まれます。
その解決策のひとつとして、事務作業を効率化しようとICT化を進めました。具体的には、職員にスマートフォンやモバイルパソコンを貸与しました。そのうえで、複数のITツールを導入して、資料の共有や書類の決裁、チャットでの連絡など、クラウド上で業務ができる環境を整えました。
現在、決裁・データ共有などはグループウェア「アルファオフィス」、会計システムは「TKC」、チャットは「LINE WORKS」と、機能によって異なるITツールを使い分けています。
ICT化により、事務作業など自宅でできる業務をオンラインで行ったり、情報を職員間で簡単に共有できるようになったりしたことで、残業時間の削減につながりました。
―導入にはどんな苦労がありましたか。
業界的にこれまでITツールに触れてこなかった職員も多く、ツールの取り扱いへの学びを深めるなどやリテラシーを高める必要がありました。
そのため、職員に一斉にITツールを導入するのではなく、まずは管理職から取組をスタートし、管理職がツールの操作に慣れてから職員に導入していきました。全員に導入した後も、紙の書類を使用してもいい移行期間を設けて、徐々に慣れていけるよう工夫しました。
結果として、ツールの選定から導入を経て、すべての職員が操作に慣れて使いこなせるようになるまで、2年間で終えることができました。
待機時間がなくなって残業ゼロに
―ICT化で感じているメリットを教えてください。

ネットワーク環境の整備により、業務効率が上がりました。
現在、支援記録などは業務支援システム「ほのぼの」「りぼん」、決裁・データ共有などはグループウェア「アルファオフィス」、会計システムは「TKC」、チャットは「LINE WORKS」と、機能によって異なるITツールを使い分けています。
さらに、書類や情報のデータ化により紙での取り扱いが減ったことで、環境への配慮の観点からも、印刷経費の削減につながりました。スマートフォンの契約料などICT化にかかわる出費はありますが、効率的で働きやすい職場を作るために必要で、未来への投資だと捉えています。
―ICT化を経て、働き方はどう変化したのでしょうか。

これまでの成果としては、業務の在り方自体を見直し、また業務効率化を進めたことで残業が削減できました。その結果、利用者支援や研修等にあてることができる時間も増えました。また、働きやすい環境が整ったことで、かつてはライフステージの変化で働きたくても働けなかった職員が離職することがなくなり、離職率が4.92%に低下しました。
―今後、さらに取組を進めていきたいことはありますか。
今後はさらに働きやすさを向上させるため、機能ごとに使い分けているITツールの一本化を検討しています。いまのところ、福祉業界に特化したポータルサイトを使い、より効率化を進めたいと考えています。
当法人は、福祉サービスを途切れさせてはいけないという使命を持っています。職員がストレスを抱えていたらご利用者の気持ちに立って支援することはできません。職員を大事にし、ICT化などの働き方改革を通してだれもが働きやすい職場環境を整備していくことで 、より良いご利用者への支援につなげていきたいと考えています。
インタビューを終えて
ICT化に力を入れてきた「社会福祉法人げんき」。職員の働きやすい環境を作ったことで、残業時間の削減や経費節減など法人にとってもプラスに働きました。現場のイメージが強かった福祉業界ですが、工夫次第で働きやすい職場環境をつくりだすことができるのだと学びました。